imterlawの日記

郊外にぽつんと立った豪華な屋敷

花見と花火は語感に人ごみ、いろいろ似てる

春、それは新しい出会いの季節云々。

私は四季の中でも春が一番嫌いで、そこらじゅうに漂う「新しさ」のかけらをひとつひとつ踏み潰したい気分に満ち満ちているんだけれども、桜は好き。春を憎んで桜憎まず、ということでお花見に行くことにした。

お花見界のハナミズキである私は、「○○(地名) 花見」で検索をかけ一番目に出てきた公園に目的地を決定。駅から20分バスに乗り、そこから歩いて10分というお手軽スポットなことが好評価。

適当にバスに飛び乗り、人がいっぱい降りるバス停があったので、「人が降りる→ひとがいっぱいいる→みんなお花見→花見スポット」という完璧理論の元、意気揚々と下車した。

「どこだこれ」

さすがの花見のプロもこれには面喰ってしまう。桜どころか公園がある様子すらない。「the 田舎」としか言いようがない風景。山、田んぼ、川、私が見たいのは桜であって田舎ではない。

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しかし、花見のプロはこんなことでは動揺しない。グーグルマップを起動し現在地を確かめると、確かに公園が近くに存在する。ほっと一安心。今の所、桜どころか公園すら影も形も見えないが、たぶん気のせいだ。そのまま歩いていく。

いかにも怪しげな階段を登って謎の宗教法人の建物にたどり着き、あわてて階段を駆け下るというちょっとしたアクシデントもあるものの、基本的には一本道。走る農家のトラクター、年季の入った家、頑として私に桜を見せようとしない道中の風景も花見のプロに対する挑戦状だと思えば、俄然やる気がわいてくる。面白い、受けてたとう。

15分ほど歩いた所で、向こうからカメラを首から下げた観光客らしきおじいさんがやってきて、親しげに話しかけてきた。

「花見に来たん?」

「そうです。おじいさんもですか?」

「そう」

老人も花見に来たようだ。そのあと老人の話を聞いてるうちになんだか雲行きが怪しくなってきた。

「私は先からずっと歩いてきた。この先はまともな道がないし、岩になってて老体には堪えた。若いから余裕だろうけど……」

バス停から10分で付くというネット情報はなんだったんだ。すでに15分歩いていて、更にここから道なき道を進んでいくらしい。

「これいらんからあげるわ」

おじいさんから公園のマップを貰う、どうやら公園の中には入っている「らしい」。しかし、桜は一本もない。険しい道を前にマップを貰えるなんて、なんだかRPGみたいになってきたぞ。

バス停を探しているというおじいさんに行きに乗ってきたバス停を教え、別れて先に進むことにする。

おじいさんの話の通り、突然道の雰囲気が変わった。いくら田舎とはいえここまで曲がりなりにもアスファルトで舗装された「道路」を進んできたが、道路がとぎれとぎれになり土と岩が多くなってくる。どうも整備してるのかしてないのか明瞭じゃない川というより渓流沿いの道をひたすら歩いていく。桜はない。

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川の水は綺麗で透き通っており、魚も泳いでいる。これで両岸に桜があれば最高の花見になっただろうが、そんなものはない。山、山、山。

時折崖になっている部分もあり、落ちたらシャレにならないことになりそうなので、慎重に岩の上を歩いていく。桜はない。おじいさんからもらった地図によると公園には3000本の桜が植えてあるらしい、がまだ一本も見えない。

歩きにくい道を歩いていると小屋らしきものが見える。が人はおらず、シャッターは閉まり、座敷のような部分もロープで入れないようになっている。明らかに使われていない。春のこの時期こそ客が最も来る(もしも客がいるのなら)だろうに、その時期にしまっているということはそういうことなんだろう。

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道中の捨てられた休憩ポイントを抜け、更に歩いていくと、ついに、ついに……。

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滝があった。

小さな滝だったが、見るためのデッキが整備されていることからたぶん観光スポットなんだろう。いやあ、いいものを見たなぁ。自然を五感で感じて癒されていく。桜はない。滝は英語でwaterfall、桜は英語でcherry blossom、うまいこと言おうとしたけど何の共通点もない、しいて言うならどちらも英語だ。

頼む、桜を出してくれ。俺はハイキングに来たんじゃないんだ。桜を見に来たんだ。

切り立った崖に貼り付けてある「落石注意」の看板にビビりつつも先に進み、相変わらずの川の景色を眺め、飛んでいる虫を払ったりしているうちに、突然舗装されていない道路が途切れ、アスファルトの道が復活した。

アスファルト→車が来る→人いっぱい→花見」理論から付近に桜が咲いていると踏み、先に進んでいくとついに桜を発見する。

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逆光で暗くて分かりにくいが、確かに桜が道端に咲いていた。歩き続けること1時間、ついに第一桜を発見したのだ。花見だ花見だ、綺麗だなぁ。

 

いやいや、待ってくれ。この公園には3000本の桜があるんじゃなかったのか。1本だぜ、1本。1時間歩いて1本。残り2999本は?

納得はいかないが、私は花見界のハナミノカサゴ。残りの2999本の桜が満開で俺を待っている。こんなところで立ち止まる暇はない。すでに道はアスファルトだ。相当歩きやすくなっている。先を急ごう。

先に進んでいくと、ちらほらと人とすれ違うようになる。間違いない、この先に花見スポットがある。そう確信めいたものを感じ先に進んでいくと開けた広場が眼前に見える。

人々の声、掲げられたぼんぼり、桜だ、これは桜だ。ダッシュで広場に駆け寄る。ついに目的を達成だ。1時間以上歩いたけど、やっと桜と出会えるんだ。ただ桜を見に来ただけなのに、よくわからない感動と達成感に満ちている。

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 そもそも桜があんまり咲いてなかった。

後で調べたら降りるべきバス停を一つ間違えたらしい。帰りはバス停まで5分で着いた。